日印米三国戦略対話提言

2013年5月14日

インド太平洋地域における安全保障上の課題に関する日印米三国戦略対話

インド太平洋地域における安全保障上の課題に関する日印米三国戦略対話は、日本の岡崎研究所(Okazaki Institute)及び日本国際問題研究所(Japan Institute of International Affairs)、インド統合軍研究所(United Service Institute of India)、及び米国のヴァンダービルト大学日米センター(Vanderbilt University US-Japan Center)が共催しているものである。本対話はこれまで3 回にわたり開催された。初回は2011 年11 月デリーにおいて、第2 回は2012 年10月にワシントンにおいて、そして第3 回会合が2013 年3 月に東京において開催され、今後も本戦略対話を継続することが確認された。この文書は、本対話参加者の間で得られた主な合意点をまとめるとともに、日本、インドおよび米国の間の安全保障、防衛協力を更に強化するためにとるべき施策を提言するものである。

三国対話における主な合意点 インド太平洋地域における安全保障環境の評価 - 対話参加者は、インド太平洋地域は急速に経済発展を遂げつつも、さまざまな伝統的および非伝統的な安全保障上の課題に直面しているとの認識で一致している。また、日本、インドおよび米国が、インド太平洋地域における安全保障及び防衛面での主要なプレーヤーであり、多くの利益だけでなく、安全と繁栄を保障する責任を共有しているとの認識で一致している。

– 政治面および経済面での中国の影響力と国力の増大は、近年のインド太平洋地域の戦略環境において最も重要な展開であり、地域全体にとって機会ともなり挑戦ともなっている。対話参加者は、中国の軍事力の増強と自己主張の強い行動が、この地域における主として海洋の紛争をめぐる緊張を高め、深刻な影響を引き起こしうると認識している。また、対話参加者は、インド太平洋地域の主要国間で軍事力の透明性を高めてゆくことが重要であると認識している。対話参加者は、中国に対する封じ込め政策は不適切で非生産的なものであるとの点で一致する一方、中国がこの地域において確立された国際法や慣習を遵守し責任を果たしていくように、包括的な協力を強める努力を払うべきとの点で一致している。同時に、事態の望ましくない方向への展開に対しヘッジするために、安全保障や防衛面での必要な備えをとっておくべきであるといった点においても一致している。

– 対話参加者は、北朝鮮における政治・軍事情勢の展開が、インド太平洋地域の安全保障にとって最も喫緊の課題であるとの意見で一致している。金正恩体制の不確実性を踏まえ、対話参加者は、北朝鮮が、国際社会の意向を全く無視する形で、再び挑発行為を行うことに備えつつ、核・ミサイル開発や核不拡散など諸問題の解決のために、日印米三国が、今後の展開に対し、共に取り組むことについての協議を進める必要があると認識している。対話参加者はまた、中国・パキスタン・北朝鮮間の核・ミサイル拡散に関する結びつきに共通した懸念を持ち、不拡散に向けたさらなる取り組みの必要性を認識している。

– 対話参加者は、インド太平洋地域における軍拡競争の危険を回避し、無節操な軍備増強や意図しない衝突の発生とエスカレーションを防ぎ、地域の軍の間に協力の習慣を育むための二国間及び多国間の協議に、中国を関与させる努力を払うべきとの点で一致している。対話参加者は、この目標を達成するための鍵は、より高い透明性発揮と信頼醸成措置であると考えている。この文脈で、中国を巻き込む二国間の防衛当局間のホットラインや偶発事故防止協定の締結、日印米三国および三国を中心とする多国間の戦略対話や共同演習の推進が、更なる検討に値することが指摘された。

– この地域が急速に発展するなかで、経済やエネルギーの安全保障が、この地域の戦略環境において重要な課題であることも認識されている。取り分け、インド太平洋地域におけるエネルギー需要の拡大とエネルギー資源の探求が、時にはエネルギー市場や海洋安全保障を不安定化させる行動をもたらしうるからである。世界の経済の重心がインド太平洋地域へと移動していくなかで、地域に安定した供給網を構築し、安全にエネルギー資源を開発する必要性が指摘された。

- 対話参加者は、インド太平洋地域が、伝統的なものに加え、非伝統的な性格を有する多くの安全保障上の課題にも直面していると認識している。特に海洋安全保障の問題について、地域の安全保障及び防衛面での主要なプレーヤーたる三国が、共同で取り組むべきことが多くあると認識している。対話参加者はまた、海洋安全保障の脆弱な性格を認識し、国連海洋法条約に成文化された海洋法の重要性を再確認した。対話参加者は、特に航行の自由とシーレーンの安全の重要性を強調した。これらはこの地域における貿易をさらに拡大させる上で重要な要素である。また、海賊、不法貿易(特に大量破壊兵器の製造に用いられうる物資の貿易を含む)などといった共通の課題に協力して取り組む努力を強化することが必要であることに合意した。また、インド太平洋地域が地震や台風を含む自然災害の多発地域であることを踏まえ、日印米三国が災害対策や救助活動においても重要な役割を果すことも認識している。

- 対話参加者は、米国が国連海洋法条約を批准し、同条約にできる限り早期に加入することを、強く慫慂する。インド太平洋地域の関係する全ての諸国が国連海洋法条約の締約国になることは、紛争を法の支配に従って解決する上での、極めて重要な基盤となるからである。

- 対話参加者は、インド太平洋地域が、宇宙やサイバー安全保障に対する新たな種類の脅威に直面していること、そして今後、日印米三国の安全保障、防衛を含むあらゆる関連の会合で、この問題を取り上げ、解決策を検討することが有用であることも認識している。

二国間同盟と多国間の枠組の役割 - 対話参加者は、冷戦終結後、インド太平洋地域の戦略環境が非常に大きく変化していることを認識する一方、この地域の継続的な不安定の要因も認識している。対話参加者は、現存の二国間同盟がインド太平洋地域における平和と安定の維持に極めて重要な役割を果たしていることに留意した。同時に、対話参加者は、インド太平洋地域における多国間の枠組もまた、参加国間の信頼と協力を強化することにより、地域の永続的な安定と繁栄に寄与するものとして価値があることも認識している。日印米三国の安全保障及び防衛に関わる機関が関与した定期的な対話は、この発展に寄与し得る。信頼を強化し協力を推進するために、インド太平洋地域の現存の多国間枠組を発展させていく着実な努力の重要性が高まっており、そのことは、地域の安全と安定に貢献すると対話参加者は認識している。日印米三国の政府が、広くこれら枠組みに注意深い関心を払い、可能な限り参加することを慫慂する。

- インド太平洋地域における安全保障は、伝統的安全保障や非伝統的安全保障に加え、経済やエネルギー安全保障上の課題をカバーする複合的な概念であり、上記の様々な多国間の枠組や二国間や三国間といった柔軟で多層的な枠組みを活用していくことが重要である。これらの枠組みを通じて協力を推進し、情報を交換し信頼醸成を行うことは、誤解を防ぎ不信感を低下させ、共通の利益の範囲を拡大することによる地域の安定に貢献する。

日本、インド、米国間の協力とトラック2の役割 - 日本、インドおよび米国は、この地域の安全と安定に貢献する意志と能力のある主要国であり、海洋の管轄に関する立場に関し若干の相違が存在するものの、広範な利益と協力分野を共有している。対話参加者は、経済やエネルギーといった分野での影響を考慮しつつ、安全保障、防衛に関しても、三国の枠組でより多くの協力ができると確信している。

- 対話参加者は、三国の有識者のコミュニティー(トラック2)が、安全保障や防衛面でも、協力や信頼醸成のための具体的なアイディアをそれぞれの国の政府に提案するという重要な役割を担っているとの点で意見が一致している。更に、トラック2の対話と情報交換が、相互理解を深めていく上で^も有用であるとの点でも意見が一致している。

日印米三国による今後の協力分野に関する提言 – 三国戦略対話を踏まえ、インド太平洋における安定と繁栄に寄与するという観点から、対話参加者は、以下のとおり、日印米三国の安全保障および防衛面での協力分野を特定し、提言する。これらの提言に関しては、トラック2の利点を生かしつつ、今後、三国戦略対話において更に議論を深め、三国協力のより詳細かつ具体的提案の研究を進めていくことで意見が一致している。

海洋安全保障コアリション(有志連合:協盟)の構築 – 対話参加者は、海洋安全保障・防衛の分野における日本、インド、米国間の既存の二国間ベースでの協力の進捗と、枠組みが三国間協力に発展しつつあることを歓迎している。対話参加者は、インド太平洋地域を貫通するシーレーンが妨害されず、また、非合法な活動にも用いられないことを保障することの重要性にかんがみ、三国が伝統的な海洋安全保障はもとより、海賊対策やHA/DR、大量破壊兵器の拡散防止などを含む非伝統的な海洋安全保障の分野での協力を、同盟ではない海洋安全保障コアリション(有志連合:協盟)の形で更に充実、発展させていくことが重要であると認識している。このコアリションは、特定の国を仮想敵国に見立てた「包囲同盟」といった性質のものではなく、地域公共財としての海洋の普遍的な安全保障を目的とするボランティア有志連合(協盟)といった緩やかな連合体である。

– 対話参加者は、三国がインド太平洋地域における接近阻止・領域拒否(A2/AD)能力がもたらす課題に取り組むことで合意した。A2/ADの脅威を克服するためには、エア・シー・バトル構想の発展に向けた取り組みを継続するだけでなく、海洋安全保障コアリションは、オフショア・コントロール戦略及びその一環としての独自のA2/AD能力を研究しなければならない。

– この海洋安全保障コアリションは、将来的には三国に止まらず、地域の他の良識ある海洋諸国の参加も求めていくものである。対話参加者は、海洋安全保障コアリションの構築が、三国間協力の最優先とすべき課題であるとの認識を共有しつつ、当面海洋安全保障コアリションを如何なる形で発展させていくべきか、また如何なる戦略を構築すべきか、といった点について三国間での検討を更に具体的に進めていくことで意見が一致している。

三国間協力の深化、拡幅 – 対話参加者は、海洋安全保障コアリションの構築に続き、下記分野での三国間協力が重要であるとの認識を共有し、今後更に、本戦略対話の枠組みで具体的な研究を進めることを確認した。

① 多層的なドメインにおけるISR協力(GSOMIA協定の必要性)

② 戦略レベル防衛協力(核抑止、通常(非核)抑止、宇宙・サイバー安全保障、オフショア・コントロール)

③ 作戦レベル防衛協力(BMD/CMD、対A2/AD作戦)

④ 戦術レベル防衛協力(各種戦)

⑤ 非伝統的安全保障協力(海賊対策、HA/DR、核・弾道ミサイル不拡散など)

⑥ 教育訓練

⑦ 後方支援協力(ACSA協定の必要性)

⑧ 基地利用便宜供与 ⑨ 防衛産業間協力