春の例大祭で靖国参拝

by on 2007年3月 1日

■憲法改正は「数」の問題

 私は基本的に安倍内閣の方針に賛成する。ただし、あらゆる仕事には優先順位がある。

 総理の掲げる「憲法改正」は、大目標としては正しい。しかし、憲法改正というのは「数」の問題である。

 憲法改正には、衆参総議員における三分の二の賛成と国民投票による過半数の賛成が条件となる。公明党の支持を集めるとするならば、改正の内容において妥協せざるをえない。それならばまず、実現できることに着手すべきである。

 安倍総理が行うべきなのは、まず集団的自衛権の行使を決めることだと思う。何度も同じことを書いても仕方ないが、日本は集団的自衛権を保有しているが、それを行使できない。権利があって行使することができないというのはインチキである。憲法では表現の自由や思想の自由、基本的人権など、もっている権利はすべて行使できる。

 ましてや集団的自衛権の解釈変更は、いますぐにでもできる。もちろん行使できるようにするがあえて使わない、という選択はあってよいが、解釈の変更すらしないのは「知的堕落」であり、それを受け入れた政治家や役人の責任である。

 もう一つは、武器輸出三原則の解禁である。

 武器輸出が禁止されると、企業は国内でしか供給できないので、価格が高騰する。輸出を認めれば国際価格となり、価格は大きく下がる。アジア諸国のなかにはインドネシアやタイなど日本の輸出を歓迎する親日国も多く、解禁に問題はない。

 そもそも武器輸出三原則の問題がこじれたのは、三木武夫総理に原因がある。三木総理の時代まで、武器輸出の禁止は共産圏や国連決議の定める輸出禁止国に限られたものであった。

 しかし、一九七六年の国会答弁で三木総理が禁止対象国以外への輸出も「慎む」と発言したため、輸出は実質、全面禁止となってしまった。

 当時、亡命のため函館の領空に入ったソ連のミグ25戦闘機をアメリカに逃がすことも、武器輸出三原則違反といわれたほどである。インドネシアがマラッカ海峡の安全航行のために購入を希望しても、掃海艇を売ることができないという不都合が生じていた。

 その後、一九八三年に中曽根内閣になってようやく、日米安保上、米国向けの武器技術の供与だけが認められることとなった。

 思えば、同じく一九七六年に防衛費のGNP一%枠が撤廃されたのは一九八六年だから、総理が何かおかしなことをすると、軌道修正に十年もの歳月がかかるということである。

 

■中国の抗議に実害はない

 

 安全保障の観点からいえば、以上の二つを行うだけで、日本外交ははるかにスムーズになる。

 もう一つ付け加えるなら、靖国神社参拝の問題である。

 この場で一つ申しあげておきたいことがある。昨年十月の安倍総理訪中の際、「安倍総理が靖国神社に参拝しないことを条件に日中首脳会談を開く」という「密約」説が流れていた。

 この話は当時、テレビのニュースキャスターが堂々と口にしていたし、いまでも囁かれていることなので、はっきりさせておきたい。この密約説は「嘘」である。

 ある出来事を「嘘」と断じるのはなかなか度胸がいることだが、それには根拠がある。

 昨年の日中首脳会談は、九月二十日の総裁選から二十六日の総理就任までのあいだに、外務次官会談を通じた表のチャネルだけで成立したものである。そこに「中国ロビー」と呼ばれる裏のチャネルはいっさい介在していない。したがって、密約などというものが生まれる余地はないのである。

 安倍総理は靖国神社の参拝に関して、「行くとも行かないともいわない」という立場を貫いてきた。それは靖国問題を政争の具にしないという意味であり、妥当な判断だと思う。

 現に、靖国神社に「行くとも行かないともいわない」という前提のもとに日中首脳会談が開催されたことで、中国は事実上、安倍総理の方針を認めたことになる。

 したがってこの春、もし安倍総理が例大祭に行くとしても、これまでの「行くとも行かないともいわない」という線が保たれているかぎり、中国が首脳会談をやめることはできない。

 もちろん、安倍総理が靖国神社に行ったと分かれば、中国は激しく抗議するであろう。これは中国としては当たり前のことであって、他の案件には全く影響はない。

 李登輝氏が二〇〇四年に日本に訪れた際も、中国外交部はビザの発給に抗議したが、実害はなかった。

 外交においては、自分の国に不利なことをされたらその場で抗議しておかないと、のちに「時効」が成立してしまう。抗議した記録を残しておくことが重要なのであって、これは竹島や尖閣諸島の問題でも同じことである。

 昨年の世論調査で安倍政権の支持率が六五%から低落して五〇%を切ったことは、気にする必要はない。

 世論調査というのは、そもそも信頼性において疑わしいところがある。かつて森政権の支持率が一桁に落ちたときは、国民の支持で選ばれた自民党の総意よりも低いということだから、この数字が正しければ民主政治が成立しないことになってしまう。

 そのうえでいえば、私は民主政治での政権支持率は、四〇%から四五%が妥当であると思う。五〇%というのは、私がパリに在勤していた時代(一九六二年末から六五年)のシャルル・ド・ゴール政権、つまり独裁政治である。安倍政権の支持率は、現在の水準が続くかぎり何の心配もない。あとは先に申し上げた仕事を行なえば、政権の評価はさらに高まるであろう。