米の対日政策 大統領選後も不変

2008年6月23日 

 

 最近よく、政界、財界の方々から、真顔で「今度の選挙でアメリカの大統領が民主党になったら、日本はどうなるのでしょうか?」という質問を受ける。
 

 もっとも米大統領選の結果が気になるのは日本だけではないようである。ショーンフェルドという米国の評論家によれば、パレスチナの過激派ハマスの指導者は「オバマ(民主党)の選出を希望する」と明言し、ロシアのメドベージェフ大統領も、プーチン首相の側近も、「マケイン(共和党)は最悪、オバマが最善のチョイス」と言っている由である。チャベス・ベネズエラ大統領はマケイン氏を「戦争屋」と言って批判し、イランの公共テレビのドラマの中で、イラン転覆を図る悪役の名は「ジョン・マケイン」の由である。
 

 今回の日本の政、財、言論界の反応は異色である。
 

 従来日本のインテリの間では、民主党候補を支持するのは、リベラル、進歩的、共和党候補支持は、保守的のイメージがあり、選挙ごとに日本のいわゆる知識人は民主党候補支持であった。
 

 それが今回私に質問してきた知識層の人々は民主党政権の出現を危惧(きぐ)している。
 

 その最大の理由は、クリントン時代初期、1990年代前半の、今から客観的に見ても無理無体な、日本たたきの記憶がまだ残っていることにある。今でも財界のような元来親米保守のはずのサークルでも対米警戒心が強いのはあの時の後遺症である。
 

 もう一つは、米国政府のアジア政策を決定するホワイトハウス、国務省の東アジア担当者が、クリントン時代はほとんど排他的に中国専門家であり、ブッシュ政権第1期のアーミテージ氏以下親日派で固められていた時期と対照をなしていたことである。
 

 一般的に、――たとえばインドの外務省なども同じらしい――中国語専門家は親中国的になる傾向が強く、中国の影響力が10年前より格段に増大したこの時期において、民主党政権の政策の対中傾斜が危惧されるのである。
 

 しかし私は共和党、民主党で、対日政策はあまり変わらないのではないかと思う。
 

 共和党になっても、アーミテージ氏のグループが前のように政権に戻るかどうか分からない状況であるし、元老格のキッシンジャー、スコウクロフト両氏はどちらかと言えば中国に好意的である。
 

 また、民主党になっても、ソ連崩壊後、日本の経済的脅威が主敵と思われた90年代初頭当時とは時代が全く違うし、日米同盟の重要さの認識は当時より強い。予備選挙中ホルブルック氏(ヒラリー・クリントン氏の外交顧問)は日米同盟が基軸であると明言した。

 

 ◆同盟安定化が肝要 
 

 6か国協議を通じて実質上すべてを米中の対話で決め、東アジアの米中コンドミニアム(共同管理)の意図を疑われた国務省も、最近は、多数国間協議の重要性に触れる場合、必ず従来の同盟が基礎であることを再確認している。
 

 しかも日本の場合は何と言ってもペンタゴン(米国防総省)が頼りになる。
 

 1995年2月、経済摩擦が最悪の時期、日本を救ったのは、「経済摩擦は同盟の基礎を揺るがしてはならない」と明記した国防総省報告であった。それを読んだホワイトハウスの高官が「そんなことを言うと日本に言うことを聞かせる最大の梃子(てこ)がなくなるではないか」と言ったと伝えられたのを思うにつけ、もしあのときにペンタゴンの介入が無ければ、と背筋が寒くなる。
 

 冷戦中ソ連の脅威の最後の時期である1980年代、米国が同盟諸国に協力を呼びかけた時、日本は、それまで不十分であった故もあるが、率先して協力し、ついに極東における東西の軍事バランスを逆転させた。この、ジム・アワー氏(米元国防総省日本部長)に言わせればヒドゥン(隠れた)・サクセス・ストーリーを現出させて以来の相互信頼関係がその基礎にあったのである。
 

 日米同盟関係は、今後米国にどんな政権が出来ようとも、――同盟が軍事同盟である以上当たり前のことであるが――軍事信頼関係の基礎がしっかりしていれば、どんな危機でも凌(しの)げると思う。
 

 そのためには常に信頼関係の維持強化が必要である。最近「思いやり予算」について「いつまでやるのだ」という打ち切り論もあるようである。しかし私が防衛庁(現防衛省)にいたその当時から、日本の防衛費は対国内総生産比1%を超えず、集団的自衛権の行使も出来ず、アメリカにおんぶしたままなのだから、せめて駐留米軍の生活の面倒ぐらいは、という考え方が根底にあった。
 

 それは大成功であり、その後米国要人が日米同盟に触れるとき必ずこの「寛大な」支援に言及している。それを「いつまで」と言われても、その後30年たった今、その条件が変わったかというと、残念ながら、少しも変わっていない。防衛負担の少ない点は今でもシーファー駐日大使はしばしば指摘している。
 

 集団的自衛権の問題は、とくに近年具体的な必要が次々生まれ、米国は、内政干渉と言われるのを避けて表面からは言って来ないが、裏では切望の念を隠していない。
 

 2006年北朝鮮がミサイルを何発も撃ったとき、アメリカのイージス艦は日本海でそれを追尾していた。イージス艦はミサイル追尾で精一杯であるから、それを日本の自衛隊が海空で護衛するのは当然であるが、日本はそれが出来なかった。
 

 また昨年は、日本のイージス艦「こんごう」がミサイルの迎撃に成功し、ミサイル防衛は現実の話となった。他方日本は沖縄の負担を減らすためと言って海兵隊のグアム移転を支持している。本来日本を守るためである海兵隊――それはグアムでも、ハワイでも、米西海岸でも畢竟(ひっきょう)は同じである――向けに北朝鮮がミサイルを発射した場合、日本が撃ち落とせないのはなんとも説明がつかない。
 

 こんな話を知っているのは米国でも少数の専門家だけである。これを米議会、一般国民が取り上げたらば日米同盟はどうなるか。
 

 それこそは今度の選挙で民主党が勝つかどうかなどと比較にならない、日米同盟の危機である。
 

 集団的自衛権の解決は焦眉(しょうび)の急である。