「冷めた政変」に戸惑う海外論評

【正論】元駐タイ大使・岡崎久彦 「冷めた政変」に戸惑う海外論評 2009.10.8  

<<「反基地」の思想に懸念も>>

 民主党新政権の下でこれから日本はどうなるのであろうか。  

 誰もはっきりとした見通しを持っていない。毎日懸案を次々に片付けなければならない民主党指導者にも分からないのだろうと思う。  

 ここで将来を占う一つのヒントとして政権の誕生前後を通じての、外国の観察を総合して分析してみたい。通常外国の日本政治論は日本人なら分かり切っていることの解説の域を出ないものが多いが、これだけ先行きの見えない時期においては、あるいは岡目八目ということもあるかもしれない。  

 もちろん、外国が注目しているのは、マニフェストや3党合意の中の外交安保政策と、国際的にも影響のある経済政策であり、それを確認する首脳の発言である。  

 実は民主党の外交安保政策はマニフェストの主文では何も言っていない。「緊密で対等な日米関係」だけでは何のことか分からない。ただ、基地や地位協定の見直しの部分に、反基地運動の思想が混入しているので、日米関係の将来に国際的な懸念を招いている。  

<<中国拡大への対応に疑問符>>

 といっても、さすがに、盧武鉉(ノムヒョン)時代の韓国のようになるとは誰も心配していないが、今までのドイツやトルコの対米関係ぐらい難しくなる(アジア専門家ブルーメンソール氏)と危惧(きぐ)されている。  

 また、北朝鮮が核武装し、中国の軍備が急速に増大する現実にどう対処するかが全く触れられていないことについての懸念も表明され、日本は軍備増強が必要なのに、その前提となる経済成長戦略が全く欠如していることも指摘されている(ウォールストリート・ジャーナル。成長戦略不在についてはNYタイムズも同じ)。  

 東アジア共同体構想については、東アジアにおける日中共同の指導力などは、中国がそれを受け付けまい(英アジア専門家バウリング氏)と初めから問題にされていない。そして、日本は米中の狭間(はざま)にあるという、日米同盟中心思想でない表現が総理によって使われたことに危惧も表明されている(アジア専門家クリングナー氏)。  

 そしてそれならば、今後の日米同盟の強化は期待できず、現状より悪くならなければそれがベストだ(日本専門家オースリン氏)という醒(さ)めた見方となる。  

 どうしてこうなったのだろうかということについては、エコノミストなどが分析している。日本は、政府と経済界が一体となり高度成長を遂げ、国民は等しくその恩恵にあずかって来たが、バブル崩壊後その形が崩れ、気がつくと少子高齢化によって将来が不安になって来る一方、財政赤字は増大し、事態に対応する資金も苦しい。そこに年金問題など政府の失態も明らかになった。つまり、このままではどうにもならなくなっていた、ということである。  

 しかし、それが政変とどうつながるかというと、国民は民主党がそれを解決できるとは思っていない。他の国ならば、野党がこれほど劇的に勝てば、支持者が、広場で自動車の警笛を鳴らしたり、噴水に飛び込んだりして、祝賀するのであるが、そんな雰囲気は全く無かったと、日本人の冷たい反応を奇異の目で観察している(フィナンシャル・タイムズ)。  

<<日本人の気質に希望見る>>

 また、民主党の勝利を単なるリベラルなポピュリズムへの揺れと見る見方もある。今のオバマ米政権が、ことごとくブッシュ批判だけの政権であるように、民主党政権は自民党の親米、改革路線批判だけの政権であると、ブッシュ・小泉時代を懐かしむ論説もある(ウォールストリート・ジャーナル論説のキッセル氏)。また、この世界的なリベラル傾斜は、オバマ政権出現の余波であり、ギリシャの選挙でも同じこととなろうと言って、去りゆく自民党系の人士に対しては、20世紀の成功を共にになった米国の友人たちとして、今後とも温かく接するべきだ(評論家ホーグランド氏)という論説もある。  

 ただ、混迷して先行きの見えない日本の将来はどうなるかについて、知日派は希望を捨てていない。エコノミストは、治安は良く、貯蓄率も高く、ハイテク産業も進んでいる国なので、いつかはその潜在能力が噴出する時もあろう、と遠い将来に期待している。  

 そして、オースリン氏は、4月の議会証言で、今でも日本は一体性のある、犯罪の少ない、安定した社会であり、教育水準も高い国であること、さらに、国民は政治経済の停滞に不満ではあるが、ロシア人のように飲んだくれているわけでもなく、中国人のように時々暴動に訴えているわけでもない、と言っている。  

 確かに、この正直、勤勉、相互信頼と規律を守る国民性は、日本人が長い歴史の中で培ってきたものであり、戦後民主主義教育、日教組教育の中でも失われなかった民族の伝統であり、今後も政権は代わっても変わることはないのであろう。これが失われないかぎり希望はあるという外国の観察は正しいのではないかと思う。

 (おかざき ひさひこ)