茂田理事長挨拶

茂田大使 (3)

 

今年2022年、岡崎研究所は設立以来20周年になります。

このように存続してきたのはひとえに皆様方のいろいろな面でのご支援があったためであり、心から感謝いたします。

研究所を設立したころに、岡崎大使と話していたのは国際情勢判断の重要性でした。私は外交安保政策を論ずる前提として、適切に国際情勢判断をすることが重要であると考えており、また国際情勢判断は政策論議より調べることも多く、場合によってはより難しいと考えています。

適切に国際情勢判断がなされた場合、政策的に何をなすべきか、何をなすべきでないか、は相当程度明らかになります。もちろん我が国が持つ国力や歴史からくる制約を考慮する必要性は言うまでもなくあります。一方で国内的制約を考え、他方でわが国をめぐる国際情勢からくる制約を考える必要があります。

私は戦前の日本は国力のことをよく考えず、戦争に乗り出したと考えています。その間の事情は猪瀬直樹さんの著書「昭和16年夏の敗戦」によく書かれています。

他方、国際情勢判断についても、いくつもの誤りをしたと考えています。たとえば1941年のモスクワ攻防戦がドイツの敗北に終わることが明らかになった頃に、日本はパールハーバー攻撃を行い、第2次大戦に枢軸国側にたって参戦する愚を犯しました。情報を軽視して、必勝の信念に基づいて外交安保政策を行った結果です。

戦後の日本は情報軽視、情勢判断軽視においては戦前の日本よりも全くよくなっていないばかりか、かえって悪くなっていると私は判断しています。きちんとした情報機関をいまだに持たず、平和憲法で平和が保たれているとの幻想を持って、国際社会に対峙しています。私は現憲法を平和憲法と呼ぶのは間違いであり、9条は日本が再び連合国への脅威にならないように日本の主権を制限するために設けられた主権制限条項であると思っています。9条のGHQでの起草過程、その採択をホイットニーが吉田茂外相に迫った折りのやり取りの記録から、そのことは明らかです。

いずれにせよ、日本が外交安保政策を考えるうえで、このような幻想、すなわち平和はそれを日本が強く望めば実現されるという幻想を離れて、国際情勢を「実事求是」の精神で見ていくことが大事であると思います。

岡崎研究所はそういう観点から外国メディアの論説の紹介とそれへのコメントを皆様に提供し、外交安保政策起案の元になる国際情勢分析に今後も携わっていく考えでいます。陸奥宗光は「鷙鳥は群れず」を座右の銘にしていましたが、岡崎研究所はそれをモットーに自分の頭で考えるコメンテーターを起用、今後とも活動していくつもりです。

理事長  茂田 宏